虹の架かる橋
「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる。」


そう言って、私は鞄を持ち、トイレに向かって早歩きをした。


本当はトイレに行きたい訳じゃない。


涙が限界なのだ。


溢れてこぼれ落ちる前に止めなきゃ。


私はトイレを通過して、店の外に出た。


周りは週末の夜の渋谷。


同世代からサラリーマンまで、人が賑わっている。


頬を伝って流れる涙が勢いを増して、感情もどんどん高ぶってくる。


このまま、家に帰ろう……。 


私は俯きながら、渋谷駅の方向に足を向けた。


一歩、二歩とゆっくりと歩きだす…。


その時、いきなり私の右肩を力強く後ろから掴まれた。


こんな時にナンパなんて、と思いながら、「放して下さい」と言って、掴んでいる人を見た。



「嫌だ」
と言う声と同時に目が合った。


マサが追い掛けて来てくれたんだ…。


だけど今の私の顔はマサに見られたくなかった。



ひどい顔しているのが想像でわかる。


涙で化粧はまばらになっているだろうし、マスカラだって落ちてるに違いない。


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