虹の架かる橋
「話って何?私は、5年前のあの時に話しをしたかったよ…。」


あの時の辛い記憶がよみがえり、マサに対して怒りの気持ちが込み上げてきた。


「あの時私がどんなに辛かったか分かる?」


私は、興奮気味にマサに言った。


「本当にごめん。でも、本当に話しがしたいんだ。」


マサはそう言って、私の腕を掴み渋谷駅と反対方向に歩きだした。


「痛いよ。」
私は掴まれた腕が、あまりにも強く握られているのに驚いた。


5年前のマサはこんなに積極的では無かったし、強引でもなかった。


5年の時の流れが、開いていた私の心の穴に少しずつ、新たな「マサ」として埋まっていく。


私の知らないマサ。


今日の私は驚いてばかりいる。


ユタカと飲む約束さえしなければ、私の心は穏やかな波だったのだろう……。


だけど、今の私は嵐の夜の荒れ狂う波のように、私の心は揺らいでいる。




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