可愛くない女が恋をする
そのときは
ただただ、悔しかった。

男を謝らせる事も出来ないまま
気を失いここにいる。

その上、短気だと言われた。


自分のしてきている事が
否定された気分になった。

自分の恩人を本気で怒鳴っていた。


「あいつはね!…!!…」


何も関係ない竹中に
自分の中にあったもやもやを
全てぶつけてしまった。


竹中は黙って
真剣に私の話を聞いていた。


言いたい事を言いきった時、
自分のしている事に気づき
恥ずかしくなってきた。


「た、竹中。」

「ん?」


彼は全く怒っていなかった。


「ご、ごめん。やつあたり…。本当ごめん。」

「なんだよ、突然。今の今まで、散々言ってたくせに。」


竹中は笑っていた。


「別に謝ることねぇよ。短気とか言って悪かったな。」


そのままゆっくり立ち上がり、
保健室から出て行った。


「あ。でも、あんまり怒らない方が身のためだぜ。不満も溜め込まないようにな。じゃな。」


出て行ってから、
息をする間もなくドアが開き、
その一言だけ私に放り投げ、
すっと立ち去っていった。


唖然とした。


竹中と話すのはその日が初めてだった。

竹中は有名だから私は知っていたが、
あいつは私なんて知らなかったはずだ。


なのに…。


愚痴を聞いてくれた。
やつあたりに付き合ってくれた。
私を否定しないでくれた。
謝ってくれた。
心配までしてくれた。


なんてやつなんだろう。


カリスマ性に魅せられた。


あれが竹中…。



それから、
毎日竹中を目で追うようになった。

好きでもない野球のルールを覚えてしまうぐらい…。




あの日から、

こんなに可愛くない女が、

男の天敵みたいな女が、



恋に落ちてしまった…。
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