妖勾伝
トクン
トクン
トクン…
レンの耳に心地よく刻まれる、アヤの音色。
ゆっくりと、
深く染み渡ってゆく。
打たれる温かさは、溢れ出したレンの不安を少しずつ溶かし、
アヤの無事を、柔らかく告げたのだった。
「アヤが…
アヤが、
無事で良かった…」
化け猫の、
闇蠢く懐の中でーーー
目にしたアヤの姿。
クグツの様に息を留め、
しなだれたその細腕。
触れてしまえば、忽ち壊れてしまいそうな危うさ。
そんな姿を目の当たりにしたレンは、
今まで味わったことの無い、身を引き裂かれる思いをしたのだろう。
アヤの胸の中で、打ち続ける優しい温かさを感じたレンは、ポツリとそう呟いたのだった。
「なんだ?
私が、死ぬとでも思ったか……」
埋まるレンを覗き込む様に、アヤは続ける。
「私の事は、
レン…
お前が守ってくれるんだろう。」
母親が与える仕草で、幼子の様に自身にしがみついたレンの頭をグシグシと撫でつけると、アヤは屈託無く笑んだ。