妖勾伝
「ーーっ!」
その仕草で我に返ったのか、思わずアヤに預けていた躰を突き放す様に押し退け、レンは慌てふためいて自身を取り繕う。
耳の端まで赤くなったレンを見て、アヤは更に笑った。
「違うのか?」
「…っち、
ち、違わなくも無いが……
なんだ…
その……これは、アヤが無事で安心してだな…
ついーーー」
しどろもどろと、ボソボソ言葉を濁すレン。
ーーーからかい甲斐のある奴だ…
アヤは、湧いてくる密かな自身の愉しみを、
レンに気付かれない様にクッと奥へと飲み込んだのだった。
雲の切れ間から覗く、
ぼんやりとした星の明かりが、そこに佇む三つの影を映し出す。
「……何故…」
二人の背後でそのやり取りをジッと見ていた珀が、口惜しそうに小さく呟いた。
その声色に、
二人は振り返る。
強く握り締められた、両の掌。
痛々しげに、みるみると色が変わってゆく。
地に化け猫が臥した今、いだいていた想いを引き継ぐように、その掌に込められているのかもしれない。
怒りで見開かれた瞳をわなわなと震わせ、アヤに問うた。