妖勾伝











愛おしいその人が、



願った事は、

ただ
一つだけ。










傷付け合うこと無く、
両者が幸せに共存できる日々ーーー















ーー珀、

俺は幸せだったよ















力無く、
地面に崩れ落ちる珀。


その宙を見つめる二つの瞳は涙で滲み、記憶の中で微笑んでいる翠人だけを映している。



華奢な白い指先が、ギシリと乾いた地面を掴んだ。





「……翠人、
許しておくれーーー」








手入れされた綺麗な指先が、土にまみれて汚れてゆく。

そんな事も気にせずに、自身の浅はかな行為を悔い、珀の口から愛おしい人への言葉が零れ落ちた。









「珀……」


切なく溢れ出す、
その感情。



地面に突っ伏してしまった珀が痛々しく、思わず薄闇を掻き分け歩み寄ろうとレンは足を踏み出す。


その肩をソッと掴んだアヤは、静かにレン制したのだった。





「レン、
やめておけ。

それに……」












アヤの睨み見る先ーー




漆黒の闇。

振り返り見た先に、浮かぶ姿。





泡立つ気配が、
レンの背筋を撫でてゆく。


厭な感覚に眉を顰めながら、喉に焼け付いた熱い塊を、ゆっくり飲み下した。


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