妖勾伝
其ノ壱
<1>
まだ冷える明け方。
薄暗い山道を急ぐ、人影が一つ。
群生している木々には朝露がしっとりと張り付き、辺りの空気を心地良いものにしていた。
耳には何羽かの野鳥の囀り。
何かの気配を察知すると羽音をたてて、一斉に空に飛び立っていく。
凛と背筋を伸ばし、黙々と進んでいくその後ろ姿。
この山を越えれば、じき町にでる。
隣町を出てもう半日。
休むことなく夜道を歩き続け、少し足取りが重たくなっていた。
見上げた空。
木々の間から白んで見える。
ーーこのまま歩けば、昼前には着くだろう。
足を速め、先を急いだ。