妖勾伝

三人の間を、風がゆったりと流れてゆく。

その風はとても生温く躰にまとわりつき、幾千本もの蜘蛛の糸を想わせた。




｢アヤが、
狙いか？｣


重たい沈黙を破り、レンがそう口をきる。

その問い掛けに男は一寸理解できなかったかの様に眉を顰めたが、その大きく印象的な口を開きレンの顔を見て笑い出した。


｢可笑しな事を…
俺は、男には興味は無い。
用があるのは、レンーーー
…貴様だ。｣




そう云うが早いか、一瞬でレンの間合いまで踏み込んでくる。

男の長い腕がレンの首根っこを引っ掴み、その躰を宙高くまで振り上げると、

そのままに、地面まで叩きつけたのだった。


｢ーーーっ！｣

｢レン！｣



余りの速さにアヤは息をつぐのも忘れ、そう叫ぶ。

右肩から強く地面に落ちたレンは、庇うようにしてその場にうずくまる事しかできなかった。


｢どうした…
レン？
貴様は、その程度でくたばる様な人間じゃぁないだろう……｣



紐で結わえてある髪を引っ張り上げ、地面に倒れ込んだレンの頭ごと顔を持ち上げると、

ゆっくりレンの顔を、覗き込んだ。



｢何故、
わちの名を…？｣