妖勾伝
「あの片目の男ーーー
レンの事を、知っているようだったが……」



思案していたレンに、そう問うアヤ。

ふと目線を上げ、その瞳を見つめた。



「そう、
その事は、わち自身が一番よく知っている、と男は云っていた…
だがーーー」


覚えは無い……


ぼんやりと沢の流れを見つめながら、レンは応える。



片目の男。

あれだけの特徴なら、一度見れば忘れる事はないハズ。

前に何処で、会った事があったのだろうか。


しかし、どう考えてもその顔は思い出せなかった。



だが、あの闇の気配は本物だった。

これまで出会ってきた闇と同じ。


男の眼に宿る真っ黒な得体の知れない闇は、二人を取り巻く闇達と同じものだった。




「レンを死なせさせないと…
そう、
男は云っていた。」


訝しむアヤの声に、レンも告げられた言葉を思い出し考えこむ。



今まで、狙われ続けてきた命。

レン自身が、闇に狙われる理由は思い当たらなかったが、それが当たり前だと思っていた。



なのにーーー


男は、『死なせない』 、と……




何故か、幼い頃からレンの周りで巣くう闇達の理由をあの片目の男が知っている様で、

レンの脳裏にゆっくりと、その男の影が焼き付いていくのだった。
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