妖勾伝










「気だての良い、
優しい息子だったんだよ……
翠人はーーー」




そう語り始める老婆に刻まれた皺は深く、いまいち読み取れないその表情にレンは眉を顰めた。


息子を思い出し、懐かしむ顔なのかーーー

何故かその表情は、泥の中に埋もれていく一葉の様。




「…で?

今、その翠人は?」



周りに幾つかの銚子を転がし、気持ちよさげな顔をした神月が、何思うか黙したままの老婆に尋ねた。





「……殺されたんだ。
心無い者に、
その首を斬られてね。」



老婆の嗄れた声。

座敷間の空気が一瞬、グラリと揺れる。




老婆の隣で、紫乃の華奢な肩が微かに動いたのをアヤは静かに見つめながら、

午後に立ち寄った茶店での話を、手繰り寄せるかの様に思い出していた。





ーーー十は越えているだろう


…物怪の類ーーー




「先程、
此の辺りでその様な事柄が増えている、という話を耳にしたのですが……」


アヤはソッと膳に箸を置き、老婆に向きなおると

「何か、お役に立てるかもしれません。
良ければ、お話しをーーー」





「いい加減にしろ!
アヤ…」




アヤが老婆へのささやかな申し出をしようとした瞬間、それを遮るレンの苛った大きな声が重なった。

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