妖勾伝
「これ以上、
面倒に巻き込まれるなんて、わちは御免だ。
都まで、後少しだろ。

わちはただ、
アヤを無事に都まで送り届けたい。
それだけなんだ…」


そう云ってレンは立ち上がり、老婆と向き合うアヤを見やった。






確かにレンの云うとおり、此までこういう事に巻き込まれて、いい気は一つも無かった。


結局最後に残るのは、何とも云いえない苦い後味だけーー

どう考えてもこの話の先に有るのは、『闇』しか考えられない。




ーーーわざわざ、
此方らから出向くなんてウンザリだ


レンはいつもにも増して、強く云い放った。



そんなレンをみつめるかの様に、座敷間の縁側の上には、満ち足りた月がぼんやりと陰ろう。






それにーー


こんなにも頑なな態度をとるレンの心底には、先程のアヤと神月のやり取りが引っかかっているのかもしれない。




なかなか見ることのない、アヤのあの表情。

神月に湧く、小さなヤキモチ……?


レンはそれをアヤに見破られないようにグッと奥に押し留め、その見慣れた瞳を牽制した。






「しかし、
話だけでも訊くのは構わないだろう。
こうして、一晩宿を借りるのも何かの縁だ…」



ーーークラクラしてくる

いつもの事だ。



アヤお得意の、飄々とした態度。

こうしていつも、厄介事に巻き込まれる。




誤魔化されるまいと、レンは口唇を噛んだ。

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