妖勾伝
「ねぇ。
そんなに急いでどこ行くの?」

いきなり山の脇から現れた二人に驚き、女は足を止めた。


痩せた小さな男と堅体のいい男が、その女の顔を興味津々で覗き込む。

その視線から逃れるように、少し後退った。


「退いて下さい。
先を急いでいるんです。」



切れ長の二重の瞳。

綺麗に生え揃った長い睫が、輪郭を縁取る。

知性のある顔立ち。

それとは対照的に、しっとりと濡れる厚めの口唇が、男心を擽った。


「こんな朝早くから女一人で山道を歩くには、物騒だろ。
山賊にでも襲われちゃうよ。」

痩せた男が、強引に女の肩に腕を回した。




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