妖勾伝
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見上げた空は暗く雲が掛かり、頭上に輝く星達は姿を隠すように息をひそめていた。
雲の海原は静かに吹きすさぶ風を受け、その足を早める。
いくら流れても雲は切れる事がなく、
分厚さを増していく一方だった。
先程顔を覗かせていた満ち月も、溢れる光を消しながら深い海原をさまよう。
月光無き、闇空。
そんな空を一人仰ぎ見上げ、レンはつまらなさげに溜め息を付いた。
「なんだよ、
アヤの奴…
神月の肩ばかり持って……」
ポツリと呟く声は、虚しく空に吸い込まれ消えていく。
そんなレンの心情を汲み取るかの様に、生暖かい風が手を伸ばし、優しく頬を一撫でして通っていった。
その、
気に食わない片眼の男、
ーーー神月
出会った経緯が未だ尾を引いているのか、いくらアヤが神月の事を云っても訊く気にはなれなかった。
ーーたとえその眼に、深い闇が見えなくなったとしても……
奴が闇だということは、間違いない事実ーーー
そう、
レンの闇を感じ取る本能が、ジンジンと警鐘を鳴らしていたのだった。