妖勾伝
瞼を閉じると、耳元に響く風の音。

その音は何処までも低く、闇を奏でる音色にレンは耳を傾けた。


その音色に厭な感覚は無く、何故か耳に残る神月の声と重なっていく。




神月の、低い声。

潰れた片方の歪な眼。


レンの姿を一方の眼にとらえ、ニタリと笑う。



何かを心知る様に。






ーーー満ち月の光を厭う、牙持つ獣……







いつからだったか……




その力が、
自身に宿ったのはーーー








瞼を開けると、薄闇に白く浮かぶ自身の両の掌。



太刀を握り続けてきたそのレンの掌には、幾重にもマメが重なって堅く張り付き、

取れることは決してもう無いだろう。





幼い記憶の糸を手繰り寄せながら、

いつからか身に宿った、満ち月に関わる自身の力の行方をっていた追っていた。




その力、

月の満ち欠けに、変化するーーー




月が欠けると共に闇に似た力は強く漲り、

満ち足りた月夜の一晩だけ、何故か息をひそめ、力を手に入れる前の躰に戻るのだった。



同時に火照る、右肩。

熱を持ち、
疼き始める。

まるでその力を封じる、印でもかけられたかの様に。





それは、決して『人』では無い力。





どうしてこの様な力が身に付いたのかは解らない。


気付けば手にしていた、陰なる力。



十を少しばかり、超えた頃だっただろうか。

レンが、自身の躰に宿りし力の存在に気付いたのはーーー



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