妖勾伝
力の始点ーーー
ーーー燿(ヨウ)の一座に世話になり始めた頃だったか…
レンは、記憶の糸を手繰る。
行くあてもなく、ただアヤと再び逢うために生き抜く事だけを考えて生活していた頃、
レンは半妖の菰(アコ)と出会った。
その菰が身を寄せていたのが、燿の一座。
オジキの見せ小屋と同じく、舞芸を生業として各地を廻っていた燿の一座で舞う菰の姿は、
一目でレンを虜にした。
純粋に舞う為だけに生きた半妖の菰の輝きは、舞が好きだったレンを惹きつけていく。
幼い頃見た、姐サの舞う姿に類似する、菰の美しさーーー
結局、菰とは一日限りの短い別れとなったが、行くあてもないレンを不憫に思い、燿が一座へと引き取ってくれたのだった。
菰も、赤子の時に燿に拾われた身。
オジキに拾われた境遇と重なり、レンは菰に心を許していくが、
その晩、突如現れた物怪から燿を守るため、菰は物怪と相対峙して生命を落としたのだった。
レンの右肩にある傷跡も、その名残。
深く刻まれた烙印に酷い惨事を焼き付け、レンの脳裏に甦る。
ゆっくりと傷跡を掻き抱くレンの姿が、闇に浮かんだ。
そう、
きっと、
その頃からーー
レン自身が、月の満ち欠けに関係する躰の異変を気付いていくのに、
そんなにも時間がかからなかったのは、云うまでもないだろう。