妖勾伝
事実を突き付けられ、呆然と立ち竦むレンの顔を静かに覗き込み、神月はこう云う。


「信じきれない寝物語だろうが、
直に貴様は、事実を受け入れざるを得なくなるだろう……」






凪ぐ風に押され、雲の海原は既にその厚みを消していた。

薄く残る雲の端を裂いて、顔を覗かせた小さな星が瞬き始めている。



そんな闇空を見上げ、神月は愉しげに言葉を紡いでいく。








「……今宵は、
牙持つ獣が厭う、
満ち月だ。」

「ーーーっ!」



ーーー神月、
ぬしは、本当にあの時の物怪だというのか…




闇を縁取る歪に潰れた片眼は、何も語らない。

クククと事実にほくそ笑む神月を見て、レンはそう問おうと口を開きかけた。










それと同時ーーー




薄闇に立つ、二人の背後。

アヤを一人残す古屋敷の方から、物凄い地鳴りが響きだしたのだった。



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