妖勾伝
「始まったな……」
動じる様子も無く、ゆっくりと背後を見やる神月。
響く地鳴りで、薄闇に佇む屋敷が一瞬グラリと揺れる。
「ーーーアヤっ!」
瞬間、
それまで屋敷全体を包む薄惚けた違和感が、はっきりとした濃い闇に、色を変えだす。
あわたつ、視界。
揺らぐ、気配。
すべてを飲み込もうと、その張り付く面妖な四肢を、広げてゆく。
ただならぬ気配を感じ、レンは古屋敷に駆け出そうとしたが、
神月は制する様に、その細腕を無言で掴み取った。
「離せっ…」
「もう、遅い。
始まったら、奴を止める事は出来ない。
今夜、力を使うことの出来ない貴様では、なおさらだ……」
静かに闇をたたえる、神月の眼。
見通す様に、レンの瞳を見つめる。
「ぬしは、
今夜此処で、何が起こるのか知っていたのか?!」
噛みつくレンの腕を掴んだまま、神月は何も答えない。
ただ、もゆる
その熱を帯びた、レンの瞳を見つめるだけ。
静かに、
深くーーー