妖勾伝
「俺と貴様を狙って、屋敷に呼び寄せたみたいだったが、
今の奴の目的はアヤだ。

放っておけばいい。
貴様が行かずとも、話は収まる。」




「馬鹿を云うな!
アヤを放っておけとは…

奴等が、もしアヤの力を狙っているなら、尚更だ。


たとえ今宵、
わちが闇の力を使えなかろうとも、アヤは必ず守る。

この身が朽ち果てようとも、アヤを都まで送り届けると、あの時約束したんだ!」






悲鳴にも似たレンの切なる声が、薄闇を震わせた。


アヤを、
ただ想う

切なる気持ち…







レンは目の前に立ちはだかる神月を押し避けると、怒涛の様に激しさを増す古屋敷に向かって駆け出した。


「ーーーレンっ、
待て!」


駆け出す後ろ姿を呼び止めようと、神月はその声を大きくする。

一瞬、
時が止まったように、振り返ったレンと視線が絡んだ。






「アヤの、力とは……


アヤの名は、
何なんだーーー?」






「……アヤタカ

黒葛 綾崇
(ツヅラ アヤタカ)だ!ーーー 」









地鳴りと共に白煙に包まれ始める屋敷に向かって、小さくなってゆくレンの背中を、呆然と見つめる神月。

レンの口から出た名に、ただ驚きを隠せずその場から動けなかったのだった。





「ーーーアヤが、

アヤが、あの『黒葛』の血筋を引く者だったとはな……」







可笑しさを堪えきれず、その口元から笑みが込み上げる。



「面白くなってきた……
此は、
見ものだーーー」










見上げる空は、




依然、漆黒にたなびく暗雲に覆われ、満ち月の明かりすら見えない。

その薄闇の中、
神月のほくそ笑む表情だけが、薄っすらと浮かび上がってゆくのだったーーー


























< 83 / 149 >

この作品をシェア

pagetop