妖勾伝
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飛び込む、
古屋敷ーーー
足を入れたその瞬間、その躰にまとわりつく妖触に、煮えくり返ったように胸が疼く。
視覚。
聴覚。
嗅覚……
レンは、自身の五感をすべて遮られる厭な感覚に眉を顰め、
その濛々と白煙舞立つ間口で、一歩踏みとどまってしまった。
視界を遮る白煙。
片手で避けながら大きな瞳を細め、その奥に蠢くモノを見据える。
先程目にした、鼈甲色の磨き上がる長い廊下はグラリと姿を歪め、まるで生を成した様に脈動を打ち始める。
飛び込んだレンを招き入れるその漆黒の口は、目の前でパックリと開かれていた。
ーーー飲み込まれる…
蠢く闇の大きさに、そんなちっぽけな自身の身を委ね、レンは息をのんだ。
「ーーーチッ…
何時も、
こうだ…」
闇に圧され、レンは毒つく。
周りを必然的に固められていく闇に、レンは苛立ちを抑えられなかった。
神月から寄りどこられた力にしても、幼い頃から自身に巣くう存在にしても…
枷をかけていく様に、レンの細腕にジットリとその触手を絡ませていくのだった。