妖勾伝
「クソっ…!」
くだらなく湧く感覚を奥に留め、レンは俯きかけた顔を上げた。
凛としたその姿に、迷いは無い。
ただ、
目の前に広がる闇と対峙するのみーーー
ズズーーーーン…
何度も響く地鳴りに体制を崩されまいと、レンはぐらつく足元を庇いながら上手く身を捩った。
それと同時、
屋敷中にけたたましく轟く、何者かの悲鳴にも似た雄叫びが、レンの耳をつんざく。
ーーっ!
その雄叫びの中に、微かに慣れ親しんだアヤの声が混じっていた事を悟ると、レンは躊躇いもなく脈動し続ける屋敷の廊下を蹴り上げ駆け出していた。
「アヤっ!」
踏み込む足元は精気を宿して生暖かく、何度も足を取られかかる。
鼻腔につきだす、
香の匂い。
廊下の脇に幾つか生けられていた鮮やかな華々は色を無くし、その首をひしゃげていた。
悪くなる一方の視界は、まるでレンからアヤを遠ざける様に濃くなってゆく。
深く、
深くーーー
思考を痺れさす香の匂いに囚われまいと、そのふっくらとした下口唇を噛みしめレンはアヤの名を呼ぶ。
「アヤぁっーーー」
くだらなく湧く感覚を奥に留め、レンは俯きかけた顔を上げた。
凛としたその姿に、迷いは無い。
ただ、
目の前に広がる闇と対峙するのみーーー
ズズーーーーン…
何度も響く地鳴りに体制を崩されまいと、レンはぐらつく足元を庇いながら上手く身を捩った。
それと同時、
屋敷中にけたたましく轟く、何者かの悲鳴にも似た雄叫びが、レンの耳をつんざく。
ーーっ!
その雄叫びの中に、微かに慣れ親しんだアヤの声が混じっていた事を悟ると、レンは躊躇いもなく脈動し続ける屋敷の廊下を蹴り上げ駆け出していた。
「アヤっ!」
踏み込む足元は精気を宿して生暖かく、何度も足を取られかかる。
鼻腔につきだす、
香の匂い。
廊下の脇に幾つか生けられていた鮮やかな華々は色を無くし、その首をひしゃげていた。
悪くなる一方の視界は、まるでレンからアヤを遠ざける様に濃くなってゆく。
深く、
深くーーー
思考を痺れさす香の匂いに囚われまいと、そのふっくらとした下口唇を噛みしめレンはアヤの名を呼ぶ。
「アヤぁっーーー」