妖勾伝
「アヤは…
アヤは、何処だ?!

首を斬られたという、先程の翠人の話しは……」




ニタリと笑うその口元は耳元の近くまでパックリと割け、大きく蠢く化け猫の不気味さを一層誘う。

目にしみいる、臭気とも何とも云えないきつい匂いが辺りに漂い、ツンと鼻をついた。





間合いを縮めるべく打ちつけられた躰を少しずつずらしながら、体制を起こすレンを見やり、

化け猫は、微かにほくそ笑む。





「人間に……

無惨に首を斬られた翠人の怨念を払おうと、

儂はこれまで首を斬った輩を探す為に、男達の首を斬り落としてやっていた……

これまで起こった面妖な首斬り噺は、すべて儂がなした事だ。」





老婆の時と変わらず、本来の姿に変化した後でもその靄がかる眼は虚ろったまま。

泥に沈めたガラス玉の様に、鈍く光を映し出していた。






「猫一匹の首を、面白半分で斬り落とす戯けた輩ーーー

儂は、この地に平然とのさばる人間共には、
いい加減、うんざりしていた処だった。
すべてを排除してやろうとな……


だが、
此処にアヤがいるなら、話は別だ。

黒葛の力を持つアヤをあの方に引き渡せば、死んだ翠人も蘇らせてもらう事ができるはずーーー」





ーーーあの方?…










今こうして対峙している、闇達の背後。

アヤとレンをこれまで取り巻いてきた輩達とはまったく違うであろうその大きさに、レンの心臓がドクンと一つ大きく鳴った。


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