妖勾伝
「闇を納めし者……」


化け猫は、語りだす。

その語る声は低く、
どこか暗闇に唸りをあげる、海波の轟にも似ていた。







「代々引き継がれる黒葛の血筋は、何千年も前からこの世に蔓延る闇達を、納める為だけに存在し続けてきよった。

この地の平穏を、守る為だけにな。」







アヤの願いーーー

幼少の頃から心情を押し殺し、身を呈してでも、守り続けたかったモノ。

代々引き継ぐその意志は、切にこの地の平穏だけであった。








くだらん、
存在だ…


そんな事でも云いたげに、化け猫は言葉を吐き捨てる。





「その、闇を納める力を持つ勾玉は、
先代から男親へ。
そして、その男親から男子の躰へと、勾玉の力を宿し代々引き継がれていくと云われている。

最初は、輩探しにレンと神月の首を狙ってこの屋敷に招き入れたが、そこに黒葛の勾玉の力を宿すアヤが居たとはな……


女の形をしていたもんだから、気付かなかったよ。」





黒葛の秘める力。

以前、アヤの口から語られたその話ーーー









化け猫はそう云って笑むと、躰中に蠢く闇達を従えてその大きく太い前足をゆっくりと伸ばした。




悲鳴にも似た闇達の軋みが、レンの耳を震わす。

痛い程の耳鳴りに、思わず耳を塞いだ。


< 90 / 149 >

この作品をシェア

pagetop