妖勾伝
「あの方に、
黒葛を渡せば……」






煮える二つの眼玉が、躰中から轟く叫びを押し込める様にギョロリと歪む。



「ーー何千年もの間、
こうして儂ら闇達を納め続けてきた黒葛に、物云わせてくれるあの方が現れた今…
この、人間がのさばるくだらない地が、闇色に変わるのは間近だ。

黒葛に、
怨念を抱き続ける、あの方になら…



そして、
アヤをあの方に引き渡してしまえば、儂の願いも叶うハズ。」





化け猫が、アヤの命を狙う訳。

必要以上に二人に追い迫る、闇達の理由ーーー



すべては、化け猫が云う『あの方』に繋がるというのか。






自身の悦の為になら、人の安らぎを簡単に踏みにじれる、

そんな闇達の思惑にレンは胸が鷲掴みされる様にキリキリ痛んだ。




そして、
その輩達が崇拝する、人物ーーー


ーー何者なんだ…







そう云いかけた瞬間、
化け猫の懐に濛々と渦巻く、影の狭間ーー

レンの瞳に、アヤの羽織っていた着物の裾がチラリと映ったのだった。








ーっ!


「アヤっ!」










アヤの姿を見るや否や、すぐさま立ち勇ぶレンによって、腰元から抜かれる二つの小さな太刀。




その、妖刀の刃先ーー

滲み溢れる飛沫が綺麗に弧を描き、太刀を振りかざすレンを囲んで、四方に弾け飛ぶ。






懐まで一気に走り込むと、レンは化け猫の視線高くまで地を蹴り上げ、そのまま力任せに太刀を振り下ろした。



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