妖勾伝
「…フン、
小賢しいわ。」







瞬時にレンの動きを見定め、紙一重でその刃先からスルリとすり抜ける化け猫。


巨駆を諸ともせず、
機敏に動く様は妖艶に。

アッと云う間に、中庭へと通じる開かれた間口を抜けると、地鳴りを響かせ降り立った。






「チッ……」

虚しく宙を斬った太刀を構え直し、小さく舌打ちするレン。

視線は鋭く、化け猫の懐ではためくアヤの羽織りを追ったまま。





もう一度踏み込もうと利き足に重心をずらし、化け猫に向かって中庭まで音もなく飛び降りると、大きく太刀を振り払った。






かわす、
化け猫。


懐に素早く入り込もうとするレンを愉しそうに弄びながら、いとも簡単に避けていく。



「レンなど、恐れずに足らんわ。
黒葛が連れ立つ者だからと、気を張っていたが…


アヤもこんな役足らずな人間を供にして、儂ら闇の間を潜り抜けようとはな。

黒葛も千年前に守人を無くしてからは、落ちたもんだ……」





そう云って鼻で笑う化け猫が、幾度目かのレンの攻撃から巨駆をかわそうとした瞬間ーーー



凄まじい稲妻を全身に走らせた様に、その躰を激しく仰け反らせたのだった。



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