妖勾伝
力無く揺れる、アヤの細腕。



その躰に最低限度必要な筋だけを付けた、均整の取れた肉付き。

化け猫の身悶えに合わせて宙を掴む様に、その腕が左右に振れる。





羽織りが、
ゆっくりとたなびいた。









「ーーーアヤっ!」





レンの動揺と共に、強まっていた印の影が微かに揺れ動く。


化け猫を囲むその八方から、渇ききった地を焼き付ける様な音が、ジワリと響いた。





「クソっ…」



捜し求めていたアヤの姿を自身の瞳で見上げたレンは、地団太を踏む様に大きく地を一蹴する。









ーーーこのまま、
化け猫を闇に送るか、

一旦印を解き、
アヤを助けるべきか…






化け猫の闇蠢く懐の中で、静かにその躰を預けるアヤ。

目覚めていない今なら、印の効力も化け猫に集中しているだろうが、このままいくと無防備なアヤもただでは済まないだろう。


アヤの頬に、
長い黒髪が、ハラリと一筋落ちた。










「レ…ン……」






ぼんやりと開かれていく、アヤの瞳。

レンの姿を映し留める。



同時に、生気が失せていたアヤの口元から、レンの名を呼ぶ慣れ親しんだ声が漏れた。

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