妖勾伝
レンは、両手に携えた二つの太刀を小指の端からもう一度強く握り直すと、素早く宙を真一文字に斬りその飛沫を迸らせた。

視線は熱を放ち、化け猫を睨み上げる。






ーーー機会は、
一度きり…




化け猫の懐に飛び込む瞬間に印を解き、アヤを助けた後、動きを封じられていた化け猫を闇に葬り去る。



レン自身にも危うい賭だったが、アヤを助け出すには、方法がこれしかない。


レンは瞬時に一連の動作を頭に叩き込み、印の効力で苦しさに身を捩る化け猫に向かって駆け出していた。











「ーーー渡さぬ…

アヤは、
決して渡さぬゾ……」




おどろおどろしい、化け猫の地を這う声。

吐き散らかされる言葉は、闇の色ーーー



レンの走り込む姿を察知し苦痛に身悶えながら、化け猫の薄目に歪まれていた二つの眼玉がギョロリと見開かれた。





すべてを焼き尽くす、紅くたぎった眼玉。

弾ける気配。


その豪を増す視線に周りの緑は首を折り、姿を爛れさす。


レンが化け猫へと駆け近付く地は、熱く煮えくり返り、一足踏む毎に音を立ててその足跡を刻みつけていった。


まるで、
レンを拒むかの様に……




「アヤを、
返せーーー!」

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