妖勾伝
高く蹴り上げ跳んだその躰は、羽根が生えているかの様に暗雲に覆われた空に悠々と舞う。



時ガ、

止マルーーー







フワリと宙で躰を捻りレンは片手で印を解くと、がら空きになった化け猫の頭上目掛けてその太刀を振り下ろした。







ただ、
ゆっくりと、

刃先から漏れ落ちる雫が時を留めて連なり、レンが振るう軌跡を描いていく。

一分の隙もなくーーー











ところがその頭を貫く寸前で、化け猫に向けられていた見事なる太刀舞いは、突如入ってきた影に大きく振り払われたのだった。











キンッ


頭上を抜け渡る、
金属音。

「チッ…」




舌打つレン。

いきなりの事に、体制が揺らぐ。





辺りに、激しく飛び散る火花。

四方八方に弾け、
眩みに、瞳を細めた。





横槍の入った方をとっさに振り返り、宙で交わりながらレンはその影の主を見下ろす。



「そんな事は、
させないよ……」








宙で幾重にも揺れる、
朱色の着物。


同じ朱で縁取られた口唇が、ヌラリと艶めく。




躰ごと預けられたその体重を力一杯跳ね返し、レンは身を翻しながら体制を整え地上に降りたった。










「ーー珀…」




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