妖勾伝
レンを見据える眼差しは先程よりも鋭く、光を受けるたび珀の二つの黒目は、化け猫の眼玉に似た紅の色を放つ。


薄闇に、その姿をくっきりと映しだした。






レンの目の前に対峙する、珀の気ーーー


女の力とも思えない様な凄まじい太刀の跳ね返しに、レンは緩みかけた掌を握り締める。

ーーー珀もやはり、
物怪か…


冷たく感じる汗が、じっとりと滲み浮かんだ。






「邪魔はさせないよ。

アヤは、
あの方に引き渡す。
翠人を、もう一度蘇らせる為にね。

レン…
お前の相手は私だ!」






そう云うが早いか、
間合いを詰めいるように、素早い動きで珀の刃先がレンに向けられた。


かまいたちよりも鋭い、宙の絶ち斬れる音。

その早さに思わず斬り付けられそうになりながらも、寸で舞う様にレンはかわしてゆく。



「止めろ!
ぬしとやり合う気など
無い。」


片手で地を弾き、珀の太刀をひとたびかわすレン。

大きく叫ぶ。


「わちの邪魔立てをするなら、
ぬしも叩き斬るぞ!」








珀との距離を取るため、レンは三段蹴りで古屋敷の茅葺き屋根を一気に登り上がる。


黒く蔓延る、
闇の四肢。

その眼下に広がる、曲々しい地上を苦々しく見下ろした。



< 97 / 149 >

この作品をシェア

pagetop