妖勾伝
ズズズズーーーーン
凄まじい音。
地鳴りと共に、印を解かれた化け猫が、
その巨駆を保っていた体制を崩して、荒れた地に倒れ込んだのだった。
揺れる大地に砂埃が濛々と舞いたち、視界が一瞬にして濁ってしまう。
その有様に、珀とレンは対峙していた事も忘れ、互いを見る事なく思わず振り返った。
屋根上で見下ろすレンは、太刀を構えたまま瞳を見開き言葉を詰まらせる。
ーーーアヤは!?…
蠢く薄闇。
口々に、化け猫の躰中から悲鳴をあげだす闇達。
囚われたその鬱身に、自ら呪詛をかけてゆく。
ーーー酷い様だ…
目を背けたくなる光景に、レンは眉を顰めた。
「…ば、
婆様ーー!!」
珀の甲高い声が化け猫の身を案じるように、辺りに響いた。
身を乗り出しながら、
珀は叫ぶ。
闇を呪う様に、
高く、
何度もーーー
…ン
……ク…ン…
ドクンーーー
脈打ちだす、闇。
胎動にも似た、
ーーーソレ。
レンの肌が、一瞬にして総毛立つ。
ソレは、
まるで珀の声に反応するかの様に地を這い蹲りながら形を成し、レンの目の前でユラリユラリと動き始めたのだった。