夜に 泳ぐ
散歩の理由


よくわからない…なんて嘘。


本当は、知ってたりする。
君が深夜に呼び出す理由。
不機嫌の意味。
どうでもいい会話をしたいんじゃないって事も。


このまま歩いてても良いんだけど、それじゃあ君はずっと何も言わないままだから
しょうがないから聞いてあげるよ。


「…また別れた?」


無言で歩いていた君の肩が僅かに震えた気がした。
まあ、ちゃんと見えるわけじゃないから分からないんだけど。


「…今度はなんて言われたの」
なるべく優しく聞いてやると、ぽつりと呟くように「飽きた」と言う声が聞こえた。


一言話すと、そこからはもう堰を切ったように溢れる君の声と言葉。


「飽きた、って、言われた。一週間で、飽きる?普通…。あたし、今度も、ちゃんと、好き…だったのに。どうして、いつも、うまくいかない…何が駄目なんだろう」
前を向いたまま話す、泣きそうで泣いていない声。
泣かないけどそれなりに落ち込んでいる君。


「どうして、って…」
それは君に男を見る目がないからだよ。…なんて、口が裂けても言えないけれど。


こうして、君の恋が終わるたびに
深夜に呼び出されて君の話に付き合っていたりする。
何やってんだか、って自分でも思うけど
ほっとけないからしょうがない。
深夜でも何時でも、つい誘い出されてしまう。馬鹿みたいに。

男を見る目が無くて、短い恋を繰り返す君
そして繰り返し、その失恋話に付き合っている自分。
どっちもなかなか滑稽だと、思う。
思うけど、それをどうにかしようとは思っていなくて。

ただ、頼りなく揺れるように歩く背中を見て同じように歩くだけ。
それだけ。

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