貴方ハ今、何処二居マスカ
『また、お越し下さいませ』
「あぁ」
最後のお客様を送り出し、控えに戻ろうと重たい着物を引きずると控えからは姐さん達の高い声が響いていた。
「菊花は本当に鬱陶しいわ!」
襖にかけた手がピタリと止まり、聞きたくもない会話が耳を触れた。
「あの子、3〜4年前此処とは比べられない程の田舎からあの歳宗様の元で養って貰い、この屋敷に来たのでしょう?
身分違いも甚だしいわ!」
「姐さん落ち着いてよ。
あんな小娘でも私達の倍稼いで食事は豊かにされているのよ? 着物も全て。
そのうちあんな小娘捨てられるわよ。
利用できるだけすればいい話」
「あんた本っ当性格悪いわね!」
「姐さんが言えることじゃぁ無いわ~!」
ダランと垂れ下がった手は力が入らず、そのままそこに突っ立っていた。
私はこの屋敷にとって邪魔でしかない。
突然来た女が花魁になったのだから、当たり前だ。
舞踊も何もさせてもらえないのは、姐さん達が仕組む枕仕事のせい。
私が寝る布団はいつもその情事の為かの様な柔らかいもの。
何がいいかなんて私にはわからない。
「………菊花、入るなら入りなさい。
邪魔よ」
『………申し訳ありません、姐さん』
この方はこの屋敷一番の権力者。
花魁の私よりも下に仕える屋敷の女からの反感は多い。
厳しい物言いがお高く見せているようで煩わしい、と姐さんがこの前言っていた。
だが、同族と共に私に唯一暴虐を振るわない人物だった。
孤独なのは同族だ、と言われるが、姐さん…片无-ヒラナ-は私を嫌悪している。
これを同族嫌悪と言うのだろうか。
私を見る目は常に冷たい。
だが、逆にそれが珍しいと言われていた。
片无姐さんは屋敷の女に視線さえも向けない。
だから目を向けて貰える私は珍しいといっていたのだ。
とはいえ、その目が冷たければ居心地が悪いのは変わりない。
襖を開けて花魁の私に与えられた自室の布団に別の布団を筒状にして忍ばせる。
『………本当に、居るのかしら』
気になる。
あの殿方が。