闇ノ雫
いーち、にーい……と数字が増えていく前に、俺はこの家の庭にある木の裏に隠れる。
こっそりと芳乃の様子を窺うと、早く探したいのか、数える速さはだんだんに早くなっていった。
「……じゅう!もーいーかい!」
「もーいーよー」
だが、こんな遊びには慣れていなくて、どうしても淡々とした口調になり、棒読みになってしまう。
芳乃は隠れんぼが好きらしい。
いつも芳乃が進んで鬼をやって、あっさりと俺は見つかる。
あぁ……今日だって。
「烝君!もっと上手に隠れてよ~、木の裏とかつまんない」
ぶーぶーと頬を膨らませて、文句を言う芳乃。
だが、それに苛立つとかそんな感情は全く起きなくて、むしろ愛おしかった。
「すまない。楽しかったか?」
「うーん……烝君だから許すね。隠れ方、教えてあげるから」