闇ノ雫
ドンッ……
と、芳乃のことばかり考えていたら、つい周りが見えなくなってしまい、誰かにぶつかった。
「ってえな!おい、お前!」
どうやら、謝っただけでは済ませられなさそうな相手だ。
目の前の男は、いかにも、噂で聞いた不逞浪士のような空気を纏っていて、既に刀の柄に手をかけている。
もう直感で、面倒だと感じた。
内心舌打ちをしながら頭を下げる。
「申し訳ありません。以後気をつけます」
だが、そんなサラッとした俺の言葉に、相手はさらに腹を立てたようだ。
「あぁ⁉謝って済むと思ってんのか、てめぇ」
やはりそう来たか。
もう、知らん……というかそこまで痛くはないだろう。
何故そんなに怒るのかが不思議だ。
こんな男に構うのが時間の無駄である。