闇ノ雫
芳乃はこの時代から未来へと飛んだ。
そして、必然的に、この時代の人間ではなくなった。
だから両親達からは、芳乃や小松家の記憶が消されてしまった──。
今は、何らかの理由があって、またこの時代に来た。
そうすれば、辻褄が合う。
「本当なのか、未来から来たというのは」
「私だって、これが嘘だと思いたいよ……早く元の時代に帰りたい」
そう泣きそうに言った芳乃の表情から、これは嘘などではないと確信した。
あの過去は、確実に存在している。
だが、なかったことにされている。
芳乃は……もう、未来の人間。
すなわち、俺達は“初対面”。
──好きだ、芳乃。
だが、もう俺からは伝えられない。
お前が未来の人間になったとしても、俺の記憶には、確実にあの過去が植え付けられている。
あの過去は確実に存在したのだから。
俺の記憶には鮮明に残っている、それが証拠だ。