闇ノ雫
副長は、俺の勝手な行いについては、特に触れてこなかった。
軽く一礼をすると、脳裏に浮かんだ小松の行動をそのまま副長に報告する。
「俺が小松と一戦交えたときよりも、あいつの実力は格段に落ちていました。いや、落ちていたというか……自分の力を全て出せていなかった、と言った方が正しいかもしれません」
何よりも、あの時の小松の手の震えが証拠だ。
吉田稔磨の剣に、小松が容易に勝てるのは確実なはずだった。
だが、小松は自分の中の“何か”に打ち勝つことができず、死に至る直前にまで行ってしまったのだ。
その“何か”とは……もしかしたら、あの過去が原因なのだろうか?
だが、小松の記憶からは消えているはずだ。
その部分については、いくら監察の俺でも……分からない。
「そうか」
副長はそう言って頷くと、険しい顔をして何かを考え始めた。
「……山崎、もう帰ってもいい」
「はい、分かりました」
俺は頷くと、小松の看病をしに部屋へと向かった。
この時、副長は小松にとっての最善の道を考えていたということを、俺は後になって知ることになる。