闇ノ雫
副長は、そんなところまで考えていたのだろうか。
「ようやく分かったか。何の意味もなかったら、んな寺に移転なんかしねぇよ」
西本願寺にいる人達は、長州藩と思想が同じだ。
「つまり……」
「俺らが西本願寺に行けさえすれば、長州の奴らだってそう簡単に京に来れなくなる。俺達の屯所は広くなり、あいつらの秘密基地もなくなっちまうんだ。一石二鳥じゃねぇか」
そう言うなり笑みを浮かべる副長。
あぁ……やはり、すごい人だ。
こんな人に俺は救われた。
小松に殺されるまでに……せめて副長に、恩を返したい。
しかしそこまで考え、俺の中に靄がかかる。
「山南さんが……反対するのでは」
そんな俺の問いに、副長は笑みを消し、何も答えずに縁側の向こうの空を見上げた。