変わり者同盟
『それじゃ、消毒するか。』

キャスター付きの小さなイスに座れば、久流君がそう声をかけて、あたしの膝小僧を慣れた手つきで消毒し始める。


漫画とかなら、こういうのって普通、消毒するのが女子で、されるのが男子なんだけどなぁ・・・。

なんてどうでもいいことを考えていれば、久流君がぽつりと言った。


『・・・・・・泣かないんだ、宮部。』

『消毒くらいで泣かないよー』


あははと笑えば、消毒を終えた久流君が、真っ直ぐな瞳をあたしに向けた。
痛いくらいの真っ直ぐな視線に、ドキッとする。


『泣けばいいのに。』


静かな声に、不安が押し寄せてきた。
もしかして・・・久流君、リレーで転んだあたしに、泣いて謝ってほしいの?

けれどそんな疑惑はすぐに打ち砕かれた。


『一番悔しいのは、宮部だろ。』

『!!!』


目を見開いた。
だって、予想外すぎた。


『責任感じてて、悔しくて・・・自分自身に一番ムカついてんのは、宮部だろ。』

黒い瞳が、見透かすようにあたしを見る。


『ヒソヒソ馬鹿なこと言ってる奴らじゃねーだろ。
一番一番愚痴言いたいのは、宮部だろ。』


静かな声で、けれどもハッキリと紡がれた言葉に、あたしの心臓がドクドクとなり始める。

久流君って・・・エスパー?


『・・・・・・違う?』

確認するように、久流君があたしの顔を覗きこむ。


あたしは、真っ直ぐな、見透かすかのような黒い瞳を前に、ごまかすことなんてできなくて。

『違く、ない。』

小さな声で、そう呟いた。



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