恋されてヴァンパイア

1コマ目から、私の好きな歴史の授業だった。…といっても、世界史やら日本史やらがごちゃ混ぜなんだけど…。


「えー。では、ベラ。中国を一番初めに統一した、皇帝はなんだ」


社会科の先生が、私に聞いてくる。私は間発入れず、こう答えた。


「はい。秦の始皇帝です。本名は、嬴政[えい せい]だと聞いたことがあります」


「うん、正解だな。じゃあもう一つ。新撰組一番隊隊長、沖田総司が、具合を悪くしたのは…何屋事件の直後だったか?」


「………わかりません」


私が素直に言うと、先生は苦笑いの顔のまま、こう言った。



「またダメか…まあ、仕方ないよな。ベラの家系は外国の血筋だし、日本のことなんて分からんだろ」


「すみません…」


「いいっていいって。ただし、ちゃんと復習はしろよ?」


「はい…」






…そうなのだ。私は歴史の中でも、特に世界史が得意なのだ。…日本史は嫌いである。
しかし、いくら世界史が得意でも、アジア系は正直苦手だ。
私は、ヨーロッパ系のものが性に合うのである。

…先ほど先生が聞いてきたことを、隣の桃司に聞くと、どうやら『近江屋事件』というらしい。…メモしとかないとな…。








次は数学である。
桃司は、どうやらお手上げのようだ。終いには、電卓で計算を始めてしまった。
…こんな奴に、歴史で、ちょっとでも負けたことが悔しくて仕方がない。
お母様に知れたら、また小言祭りだろうけど…。









…暫く経って、お昼休み。
私は食堂に来ていた。ほかの子は、「外で食べる~」と言って出て行ってしまったからである。勿論、桃司やルナも例外ではない。
あの子たちには、私以外にも友達がたくさんいるのだ。
それを、私の都合でどうこうする気は、私には全くなかったのである。


…前庭から、みんなの笑う声が聞こえてくる。


「…今なら、だれも見てない…よね」




私はそうやって、ひとりごちてから、食堂を後にした。行先は自販機である。
私はお金を入れ、ある飲み物を秘密裏に買った。
その飲み物、見た目はトマトジュースだが、味は鉄の味がするという、いわゆる「血」のような飲み物なのだ。

そんなのを飲んでると知れたら、たちまちルナも桃司も、気味悪がって寄り付かなくなるだろう。それだけは、嫌だった。


< 4 / 9 >

この作品をシェア

pagetop