恋されてヴァンパイア
夜の暗黒街ほど、危ないものはない。
日中は至って温和な住人たちが、凶暴になり、同族たち以外では止めようがなくなるからだ。
…まあ、私とお母様なら、そんなのワケないけど……クソ親父が、すごく心配するから…だからいつも、エレンを従えなきゃいけない…。
入り口付近に行くと、ちょっと鼻を突くにおいがした。間違いない、血のにおいである。
誰かが、けがをした?それとも、こいつら…外の住人を…!?
「あんた達!!!何してるの!!?」
私の声にはじかれたように、皆がビクつく。でも私は、血を出した奴が誰なのかを確かめるまで、声の調子を変える気は無かった。
「退きなさい。退かないなら……あんた達の血…残らずいただくわよ?」
私が声のトーンをさらに落とすと、皆はおずおずと道を譲った。
その、譲られた道を、私はエレンを連れて歩く。
暫くして、血を出していた人物が見えた。そいつを見たとき、私は血の気が引いていくのを感じた。
「っ…神峰!?」
そう。血を出していたのは、今日私に声をかけてきた、神峰浩史だった。
神峰は左肩を抑えながら、私に目を向けた。
「…よぉ…お前か…」
神峰は顔を青白くしながらも、ニッと笑っていた。
その間にも、神峰の左肩からは、ドクドクと血が出てきている。
「っ……エレン!神峰を屋敷に連れてって!!早く手当を!」
「ですが、お嬢!あなたの家系のことが知れれば、大変なことに…!!」
エレンは、私を心配してくれたのだろう。だが、そんなこと…神峰の傷に比べれば、大したことではないのだ。
「いいから、早く!!」
「…わかりました」
エレンは神峰を担ぐと、大急ぎで屋敷に引き返していった。
私は街の奴らを一睨みして、こう言った。
「…今回、あのものを傷つけた者は前に出なさい。特別に、公開処刑してあげる」
「ひっ……」
一人の男が、逃げようと人混みの中でもがく。その男は、エレンの同族だった。
「あんたか……ちょうど良かった。さっき血のにおいを嗅いだせいで、血がほしくてね…」
「う……うわああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!」
私がゆらりと近付くと、そいつは金縛りから解き放たれたように、走り出した。
「遅い…」
私は素早くそいつの背後をとり、地面にたたきつけた。
痛みでそいつの顔がゆがむが、そんなのは知ったこっちゃなかった。
「あ、あ……やめ…っ」
そいつは、泣きながら許しを請う。だが、そんなことで私の怒りが静まるはずがなかった。
「お前は、私の同級生を傷つけ…私たちの秘密を、ばれるところまで見せた。お前は、私らの恥さらしものだ…」
私はそうつぶやいて、そいつの首筋に咬みついた。
咬みついた途端、そいつは逃げようともがき、とがった爪で私の首を引っ掻く。
だが、私の顎や血を吸う力が強すぎたのか、逃げることはできずにそいつは干からびて死んでしまった。
「…あんた達も、こうなりたくなかったら外の住人には手を出さないことね」
私はみんなにそう告げ、血の付いた唇をなめながら屋敷へと戻った。