恋の片道切符
こんな嬉しいことはない、なんて大袈裟だろうが、嬉しいのには変わりはない。
ただ一言、二言話せただけでも、こんなに進歩できた、と実感する。
それくらい私には大きいものだった。
「あ、そろそろ電車が来ますよ」
彼はそう私に言い、「間もなく…」とアナウンスを始めた。
もっと話したかったな、なんて思う。
まだ電車は来ていないのに。
目の前に彼がいるのに。
思わず彼のYシャツをキュッと掴んでしまいそうだった。
だけどそこを堪えて私は鞄の持ち手をギュッと強く握りしめた。
丁度その時、パーン、と電車が到着する合図の警笛がホームに鳴り響いた。
私は顔を上げ、横から来る電車をじっと見すら得た。