恋の扉を開けて
田中さんは私が結婚前に勤務していた会社に中途採用で入社してきた人だ。

彼が立ち上げた新しい会社で私は働くことになった。

事務の担当は驚いたことに同期だった近藤みどりだった。

田中さんに引き抜かれたと言っていた。

「みどりちゃん、すっごく懐かしい!」

「るりちゃん、離婚したって本当?」

「うん、そうなの。もう悲惨だった。」

近藤みどりは以前同じ会社の業務部にいた。

総務・人事・経理の全てをこなす彼女は田中さんの目に止まった。

私は貿易部だったので輸出全般を担当した。

田中さんは常務という肩書きなのに自社製品を持って自ら営業に回った。

神田の雑居ビルの中にある彼の事務所には社員が6名しかいなかった。

彼の売りはサーモスタットといって水筒などに使われている金属だ。

保冷保温性能に優れ軽量で破損しにくい金属だった。

まだ業績は低いけれど海外から注文が入れば

彼が受発注に対応し私が輸出書類を全てそろえた。

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