Dear.
「何を言っているのですか?
山南様は....何処へゆかれたのですか?」
もしかしたら、ただ出かけただけではないのかもしれない
そんな不安が脳をよぎる
「山南さんは...出かけたんじゃないよ慶。
脱走したんだ、この新選組からね」
冷たく笑う総司
冷たく、冷たく、まるで何かを蔑むように、笑う。
「...うそ。」
私は首を横に振る、嘘だって信じたいから
脱走のその先の結末を受け入れたくないから
彼が、山南様が局中法度を破ったなんて...信じたくないから。
「嘘じゃないよ。
いまから、僕が迎えに行かなきゃなんないし、
わざわざ、行く先を書くなんて山南さんらしいっちゃらしいんだけど...、」
ゆらゆら揺れて落ちたのは総司が持っていた紙
そこには山南様の字で綴られている「江戸へゆく」の文字
「そんな..」
ポロリと零れ落ちた言葉は何もかもを疑いたくなる、そんな言葉
「大津まで行ってくるよ
土方さんがそこまででいいって言ってるからね。」
ポン、と私の肩を叩けば彼はそのまま部屋を出てゆく
大津まで。
これはある意味かけなのかもしれない
そこに彼がいなければ、山南様とは二度と会うことはないが、彼が死ぬことはない
だが、逆にそこで総司が山南様を見つけてしまえば...彼にまっているのは切腹。
ギュゥ、と着物の袖を強く握る
山南様がどうか...生きる道を選んでくれるように。
誰の為でもなく、自分の為だけに...。