Dear.
そして、嘘がつくのが得意な可哀想な女




その日の夜、気持ちが揺らぐ前に、伊東様にそう告げると笑顔で祝ってくださった

結納の準備も着々と進んで、お祝いの言葉も沢山頂いた



だけど、心は虚しくて



なんとなくだけど、幸せにはなれないな

なんて、心の中では感じていたんだ




「じゃあ、兄の墓参りに行ってきますね」




長州に嫁ぐということは、幕府側だった兄の墓参りにはもう二度といけなくなる。


そう思い、一週間後の結納を控え、私は最初で最後の墓参りへと足を向かわせることにした



ある、ということは聞いていたが、なかなか来れなかった兄さんの墓


怖かったのかもしれない、兄の魂がその場所に眠っているかと思うと。




「兄さん、久し振り...」




返事が帰ってくるはずないのに何故かそう言ってしまう



「ごめんね、なかなか来れなくて。

また、来るねとか言いたいんだけど私、もう来れないから...だから来たの

最後だから。」


ふと、思い出す昔の思い出



『ダメだ!ダメだ!ダメだァァァ!!

慶がお嫁に行くなんて...ダメだ!!!』



小さい頃、早くお嫁さんになりたいって言ったらまるで父親のように猛反対してきた兄さん


馬鹿みたい、そうその時は思っていたけれど、今ではそう行って欲しい



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