Dear.
だが、それは僕が思っていい感情とは、思っていない


彼女の大切なものを奪っておいて許されるとも思っていない



いずれあの事を話さなければならない時が来る



だけど、今はまだこのままで。



サラッと彼女の髪を撫でれば指の隙間から通り抜けてゆくほど滑らかなものだ


紅く魅力的な唇も、その白い肌も君の全てが僕のものになってしまえばどんなに楽なのだろう




こんな複雑な思いを胸に抱えることもなかったのだろうか?



全て、全て過去になってしまった話




「兄さ、ん...」



寝言で兄の事を呼ぶ慶。



可愛い。



なんで僕らは出逢うはずのなかった者同士、正反対の者同士なのに...こうやって今一緒にいるんだろうね。



世の中は何かの理がある。


僕らの出会いがその理に反する事のない出会いだったらよかったのに...



「慶...ごめんね。」



小さな総司の呟きが闇に消えていった



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