Dear.
差し出された本は何処と無く古ぼけていて、彼が好んでこの本を読んでいたことが良く分かる



「じゃあ、借りていきますね?
また読み終わったら返しに来てもよろしいですか?」


’’はい’’そう言って笑ってくれる山南様は、思っていたよりも落ち込んでたり、暗かったりはしていなかった



だから、安心しきってきたのかもしれない



廊下をタタタっ、と上機嫌で走っていると前から歩いてくる一人の人



「あら、武久さん。」


ニコリ、と微笑まれるが、何故かこの人に微笑まれても悪寒しかしない。


「伊東様、どちらへ?」


ニッコリと、愛想笑いでそう尋ねると、私の持っている本を指差す


その行為で
ああ、この人は山南様の所に行くのだ...
そう悟る。



「じゃあ、私は...、」


あまりこの人に関わっても何も良い事などありはしない。


そう思ったから立ち去ろうとするが強い力で手首を掴まれてしまう



「....?!
あの......?」



驚いて伊東様を見上げると、会った時と同じニヤリ、と嫌な笑方で笑っている



「貴女は頭がいい。

だから気づきなさい......ね?」



「..なにを、」


本当に、なにを言っているのだろうかこの人は。




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