不完全な魔女
いったんディルバは家にもどっていき、翌朝、チェルミを迎えにきた。


「やあ、おはよう、おやゆび姫さま。」


「おはようございます。」


「ほぉ・・・。明るいところで見てみると、かわいいものだな。
人形が動いてるみたいだ。じゃ、ポケットにどうぞ。」


「よっこらせっと。先生、落っことさないでね。」


「できるだけ、走ったり、転んだりしないようにするよ。ははは。
それじゃ、行ってきます。」


「よろしくな。あ、俺はこの2日、魔法の国に急用でもどる用事ができたから、先生、頼むな。
チェルミの服とかはうちのテーブルの上に用意しとくから。」



ディルバは学校ではチェルミを病欠扱いにしておいて、朝のホームルーム時に一番後ろのロッカーのいちばん下の段にチェルミを座らせた。
そして2時間ごとに様子をうかがうようにして、昼休みにはチェルミを胸ポケットに入れて中庭で昼食をとった。


「どうなるかと思ったけど、もうすぐ初日が無事終わりそうだな。」


「先生・・・こんなめんどくさいことになってほんとにごめんなさい。
あ、病欠になってるんだったら3日目は自宅でおとなしくしているし、学校につれてきてもらわなくてもいいですよ。」


「それはダメだ。君の兄さん・・・あ、じつは監視者?
とにかく保護者であるあいつに頼まれてるし、おまえに何かあったら申し訳ないからな。」


「そんな律儀に守らなくても、大丈夫ですって。
それに3日目はいつ、元の姿にもどっちゃうかわからないんだもの。
教室にボンッって裸で飛び出しちゃったら・・・。」


「あ・・・そうか。そういうこともあるかもしれないんだ・・・。
うーーん。それは確かにまずいな。
うん、そうだ・・・俺が休めばいい。」


「そ、そんなぁ。先生が休んだら、生徒が困っちゃう!」


「1日だったら大丈夫だよ。俺は有給けっこう残ってるし、昔世話になった人が病気で見舞いにいくとでも理由をつけておけば、休めるからさ。
その日はいっしょに出かけよう。
そうだなぁ・・・人がたくさんいるところは、まずいから穴場的なところがいいな。」


「先生・・・。」


「おや・・・どうした?いつもみたいに喜ばないのか?」


「だって、休日に遊びに行こうって誘ってもらったんじゃないもん。
私が魔法をトチらなかったら、教室にちょくちょく来なくても、とりたくもないお休みをとらなくてもよかったのに・・・きっと教頭先生に文句言われるよ・・・。」


「バカだなぁ。俺はそろそろ休みをとらないとなぁって思ってたところだ。
それもひとりでアテもなく出歩いたり、家で寝てるだけなんじゃない。

おまえをからかいながら、遊びに行くのはけっこう面白いからな。
おまえは気にやまなくていいんだって。
おやゆび姫との冒険なんて、この世界でできるやつなんてめったにいないと思うしな。」


「はい!私、楽しみにしてるね。」


「おぉ、まかせとけ。じゃ、そろそろ午後の授業だ。
あ、帰りのホームルームが終わったらすぐに教室から出ておいてくれ。

掃除中は床近くにいるとつらいだろ。
そうだなぁ・・・教室前のバケツの陰とかに隠れててくれるか?
さりげなく拾ってくから。」


「はい。」



それから授業が終わってホームルーム終了後、ディルバがさりげなく後ろの出口付近にあるバケツのところを見たが、チェルミの姿がなかった。


(チェルミ!?)


授業中いたロッカーのあたりをのぞいてみたが、どこにもチェルミの姿がなかった。


(どこへ行ったんだ?何かあったのかな・・・。困ったな。)


もう1度、バケツ付近を確認してみると、チェルミの小さな上着が落ちていた。


(この近くにいるんだな・・・。何があった?もしかして外敵なのか・・・?
早く捜してやらないと!)


ディルバは目をとじると頭にチェルミのイメージを浮かべて神経を集中させた。

(いちばん端の教室だ!)


ディルバのクラスの教室からみて、左端の教室へ走っていってみると、子猫が教室内を走っている。

そして、隣の教室から謝りながら、子猫を捕まえようとして追いかけてきている生徒がいた。


「なんで猫なんているんだ!!」


「ごめんなさぁーーーい!学校に来る途中に捨てられてて、遅刻しそうだったし・・・連れて来ちゃったんですぅ。
箱にいれて外に置いていたのに、教室にきてしまいました。すみません!」

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