不完全な魔女
避難訓練でもないのにけたたましく校舎内に響き渡る非常ベル音ーーーー


ほどなくして、教頭の切羽詰った全館放送の声が響き渡った。


「緊急連絡!緊急連絡!生徒の皆さん、ただちに学校の外へ逃げて下さい。
刃物を持った男が校舎内を逃走中です!

早く、早くどこでもいいから逃げてください。
先生方も生徒を最短で校舎から出られる経路で生徒たちを誘導してください!!」



(刃物を持った男だと!?)


「みんな、授業は中断だ。ここは2階だから俺が先に階段を降りるから後からついてくるように!」


ディルバは授業中のクラスの生徒に声をかけて、階段を降りていった。

生徒たちが後から続いて階段を降り、学校の非常口への誘導に成功し、ディルバは他のクラスの誘導へと校舎へもどっていった。


すると、ディルバが担任をしている教室近くから悲鳴が聞こえた。


きゃあ!!!!


靴箱付近で生徒たちが血相をかえて飛び出してきて、ディルバは出てきた生徒に犯人のことを尋ねた。


「先生のクラスにいるんだ!
ラナート先生が生徒をかばって斬りつけられて倒れて・・・それで・・」


「わかった。おまえらは早く外へ逃げろ!」


ディルバは意識を集中させて、教室の中をうかがってみた。

(どのあたりにいるんだ・・・?いたっ!!!・・・これは・・・どういうことだ?)


生物を教えていたラナートがディルバのクラスの教室前の廊下に倒れているが、死んではいなかった。

そして、生徒たちも階段から下へと逃げていたが、犯人は3階の女子トイレへと吸い寄せられるように向かっていた。


そしてその先には・・・チェルミが必死に逃げる姿があった。


「助けて!・・・やだ・・・どうして私だけ。魔法が使えないのにどうしろっていうのよ。
カリフ、カリフ!!助けてよ。」


(カリフは何をやってるんだ?監視してるんじゃなかったのか!)


するとディルバの目の前に白い紙が貼りついた。


『先生、敵だ。相手はわからないが、数人が魔法使いを狙って襲ってきている。
チェルミを助けに行きたいが、今、3人と交戦中ですぐに動けないから、守ってやってくれ。頼む!』


(カリフが戦闘中?魔法使い狙いって・・・!)


ディルバは3階女子トイレ近くに瞬間移動してみた。


個室に飛び込んだチェルミだったが、刃物男はドアを蹴ってドアを開けようとしていた。

「や、やだぁ!!もう・・・もたないよぉ。誰か・・・先生、助けて!」


ドアの鍵部分にヒビが入ったところで、刃物男はいきなりうめき声をあげて床へ倒れた。


「チェルミ!無事か?」


「ディルバ先生!」


「間に合ってよかった・・・。けど、どうしておまえこんなところで、追い詰められたんだ?」


「わからないの。教室からみんなが飛び出していきだした頃から、犯人が私だけを追いまわし続けて、ラナート先生が私が逃げられるようにしようとしたけど・・・先生は・・・うう。」


「ラナート先生は命に別状はないから。もう泣くな。
もうすぐ警察がきて、俺たちは事情聴取されるけど、素直にあったことを話せばいいからな。」




「あんまり素直に話してもいけないよ。」


「カリフ!今までどうしてたんだ?・・・あれ、あんた、怪我してるのか?」



ぐるぐるに縛り上げた犯人をトイレに寝かせたまま、カリフとディルバとチェルミはすぐ横の教室で話をした。


「あの犯人は前に話した魔法の国を襲ってきた妖精族の王子と同じウィルスにやられているんだ。」


「あの男は人間じゃないのか?」


「いや、ここでは人間の部類なんだとは思うが・・・純粋種じゃないってことだ。
妖精か魔法使い、もしくは別の種族の性質をもっているからウィルスに感染して暴れまわってたんだ。
先祖代々の純粋種の人間にはこのウィルスは感染しても支配されないことがわかってる。

俺の知り合いの科学者が見つけた事実だから間違いない。」


「なんか嫌な予感がするな。魔法の国が襲われていることに関係してるんじゃないのか?」


「ああ、俺もそう思ったからウィルスのことを調べてたんだ。
しかし、俺のとこやチェルミまで狙うということは、犯人は魔法の国の壊滅を狙う輩の手下かもしれない。

なぁ、おまえに身をひいてもらってむしがよすぎる頼みなんだが、さっきみたいにチェルミを守ってくれないかな。」


「もちろん、俺の生徒はみんな守るつもりだが。あんたは?」


「ウィルスをばらまいてるやつをつきとめたいんだ。
きっとそいつらを調べれば、本国を攻撃してくる組織がわかると思う。
だから、その間・・・。こんなことを頼めるのはここではおまえしかいなくて・・・申し訳ない。」


「気にするな・・・ただ、俺は誰かを倒すなんていう戦闘は慣れていないし、逃げることを優先するしかできない。
それに、そうなったときだけど・・・教師としての俺を保つことができるのかが不安だ。」


「私・・・カリフについていく。」
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