不完全な魔女
お隣の家はこの田舎町ハンタルでは邸宅といえる。
その邸宅の女主人のツィール夫人は80才近いのではないかと、カリフは言う。
カリフは人間界での監視者生活での経験上、かかわりのある人物はざっと先に調べていた。
ピンポーーーン♪
「はい、どちら様でいらっしゃいますか?」
チェルミたちの前に、お手伝いの女性らしき人物が出てきた。
「あ、どうも・・・はじめまして。
私たちは昨日、隣の家に引っ越してまいりました。
私はカリフ・ルローロ、こちらは妹のチェルミと申します。
隣人ということで、これから何かしら関わりもあるかと存じますので、こちらの御主人様にご挨拶をさせていただきたいのですが・・・。」
「ああ、そういうことでしたら、そちらのソファにおかけになって少々お待ちくださいませ。
主にきいてまいりますので。」
「恐れ入ります。」
待たされている間、チェルミは玄関を見回して言った。
「こちらのお家ってとても古いみたいだけど、ステキね。
今の人間って何でも流行とかっていって、新しいものを買うのが好きだと思ってたわ。」
「おい、黙っていろ。うかつにおまえがしゃべれば、父上からの天罰がくだる!」
「まぁ、カリフ・・・父上ってすっかりなりきっちゃって。」
「バカか。おまえは!!!とにかくしばらく黙れ。いいな。」
すると奥から、クスクス笑い声がきこえてきた。
「かしこまった挨拶をしてたというから、どこのご子息とご令嬢かと思いきや、なかなかざっくばらんな楽しい兄弟だな。」
「これ、初対面の方々に失礼じゃありませんか。
お待たせいたしました。私がこの邸の女主人、ナタリア・ツィールと申します。
こちらは、孫のディルバ。町の高校で国語の教師をしていますの。
でも、こんな感じだからとても先生だなんて見えないでしょう?ふふふ。」
「お婆さま、そういう紹介の仕方はしないでください。
しかも、相手はおそらく、俺の生徒になる人物だと思うし・・・。」
「俺の生徒って?私のこと・・・?」
「君、高校生なんだろ?だったら、この小さい町には高校は1つしかないんだから、俺の職場の生徒ということになるだろう。
まさか、まだ編入手続をしていないのか?」
「へんにゅう・・・?手続き・・・?」
「あ、じつは、昨日遅くにやってきたばかりなので、これから手続きをするんです。
だから、学校へは手続きが済み次第お世話になると思います。
それに、こいつは勉強嫌いで、きっと授業についていけません。
僕も貿易関係の仕事が忙しくて、小さい頃からあまり勉強をみてやれなくて・・・。」
「おふたりのご両親は?」
「生みの親はもういません。
小さい頃に事故でなくなって、里親はいたんですが、父の仕事の関係でとても遠い国にいるんです。
だから今は僕が、こいつの父親がわりでがんばっています。」
「そう、あなたはいいおにいさんね。
妹さんはとてもお元気そうで、愛らしくて素敵よ。
父親がわりにしっかりと愛情を注いでこられたのね。
少々、成績が悪いくらい気にしなくていいじゃないの。
おにいさんがお仕事で手がまわらないのだったら、孫がチェルミの家庭教師をするわよ。
話し方は無愛想だけど、学校ではけっこう評判のいい教師なの。」
「そうなんですか・・・もしお邪魔じゃなかったらお願いしようかなぁ・・・なんて。
ですが、もうツィール夫人にチェルミと呼んでいただけるなんて、ほんとにありがたいです。」
「なんで、私の名前を呼ばれるのがありがたいの?」
「おい、おまえは知らないだろうが、ツィール夫人はな、都会ではかの有名な財閥、大企業のツィールホールディングスのCEOをしておられた方だ。
田舎町で暮らしておられて気さくな方だから、わからないだろうが、本来は僕たちとは住む世界も違うお方だってこと!」
「王様とメイドくらいの差ってことかしら。」
「まあ、そんなもんだ。」
「おほほほほ、面白いご兄弟ね。そんなにかしこまらなくていいのよ。
そりゃね、若い時は亡き主人と必死に働いた時期があったけれど、もうこのとおりのお婆さんよ。
非嫡出子だったことで息子が認知はしたものの、ツィール本家に出入りすることも許されない孫とこうやって気ままに生活してるの。
孫は大人になってからなかなか私とおしゃべりもしてくれないし、もう死ぬのを待つだけになってしまうのかしらって思ってたけれど、あなたたちが引っ越してきてくれて、これからは楽しみだわ。
いつでも遊びにきてちょうだいね。
チェルミ、学校のお話をしにきてちょうだい。
おいしいお茶を用意して待ってますからね。」
「あ・・・(なんか、このおばさん・・・優しい。うちのばあちゃんみたいだ。
うちの家族は私の言うことなんてぜんぜんきいてくれないけど、ばあちゃんだけはいつも私の味方だもん。
ばあちゃん、きっと私が追放されちゃって悲しんでるだろうなぁ。)
私、ここにきてもいいの?おばあちゃんとお話してもいいの?」
「もちろんよ。まぁ、私のことをおばあちゃんって呼んでくれるのね。
なんてかわいいのかしら。」
「かわいい?ほんと・・・!そんなこと言ってくれたのは私のおばあちゃんくらいで。」
「あら・・・そうだったの・・・。あなたのおばあさまのいい思い出なのね。
それじゃ、ますますうちに来てもらわなくてはね。
これから、よろしくね。チェルミ。」
「はい、おばあちゃん!」
「おい、ツィール夫人になれなれしすぎだって。」
「いいのよ、私もチェルミが気に入ったの。
あなたも、遠慮せずに遊びにきて。」
「はい、ありがとうございます。
では、まだ荷物の片付けや手続きがありますので、落ち着いてからまた。」
その邸宅の女主人のツィール夫人は80才近いのではないかと、カリフは言う。
カリフは人間界での監視者生活での経験上、かかわりのある人物はざっと先に調べていた。
ピンポーーーン♪
「はい、どちら様でいらっしゃいますか?」
チェルミたちの前に、お手伝いの女性らしき人物が出てきた。
「あ、どうも・・・はじめまして。
私たちは昨日、隣の家に引っ越してまいりました。
私はカリフ・ルローロ、こちらは妹のチェルミと申します。
隣人ということで、これから何かしら関わりもあるかと存じますので、こちらの御主人様にご挨拶をさせていただきたいのですが・・・。」
「ああ、そういうことでしたら、そちらのソファにおかけになって少々お待ちくださいませ。
主にきいてまいりますので。」
「恐れ入ります。」
待たされている間、チェルミは玄関を見回して言った。
「こちらのお家ってとても古いみたいだけど、ステキね。
今の人間って何でも流行とかっていって、新しいものを買うのが好きだと思ってたわ。」
「おい、黙っていろ。うかつにおまえがしゃべれば、父上からの天罰がくだる!」
「まぁ、カリフ・・・父上ってすっかりなりきっちゃって。」
「バカか。おまえは!!!とにかくしばらく黙れ。いいな。」
すると奥から、クスクス笑い声がきこえてきた。
「かしこまった挨拶をしてたというから、どこのご子息とご令嬢かと思いきや、なかなかざっくばらんな楽しい兄弟だな。」
「これ、初対面の方々に失礼じゃありませんか。
お待たせいたしました。私がこの邸の女主人、ナタリア・ツィールと申します。
こちらは、孫のディルバ。町の高校で国語の教師をしていますの。
でも、こんな感じだからとても先生だなんて見えないでしょう?ふふふ。」
「お婆さま、そういう紹介の仕方はしないでください。
しかも、相手はおそらく、俺の生徒になる人物だと思うし・・・。」
「俺の生徒って?私のこと・・・?」
「君、高校生なんだろ?だったら、この小さい町には高校は1つしかないんだから、俺の職場の生徒ということになるだろう。
まさか、まだ編入手続をしていないのか?」
「へんにゅう・・・?手続き・・・?」
「あ、じつは、昨日遅くにやってきたばかりなので、これから手続きをするんです。
だから、学校へは手続きが済み次第お世話になると思います。
それに、こいつは勉強嫌いで、きっと授業についていけません。
僕も貿易関係の仕事が忙しくて、小さい頃からあまり勉強をみてやれなくて・・・。」
「おふたりのご両親は?」
「生みの親はもういません。
小さい頃に事故でなくなって、里親はいたんですが、父の仕事の関係でとても遠い国にいるんです。
だから今は僕が、こいつの父親がわりでがんばっています。」
「そう、あなたはいいおにいさんね。
妹さんはとてもお元気そうで、愛らしくて素敵よ。
父親がわりにしっかりと愛情を注いでこられたのね。
少々、成績が悪いくらい気にしなくていいじゃないの。
おにいさんがお仕事で手がまわらないのだったら、孫がチェルミの家庭教師をするわよ。
話し方は無愛想だけど、学校ではけっこう評判のいい教師なの。」
「そうなんですか・・・もしお邪魔じゃなかったらお願いしようかなぁ・・・なんて。
ですが、もうツィール夫人にチェルミと呼んでいただけるなんて、ほんとにありがたいです。」
「なんで、私の名前を呼ばれるのがありがたいの?」
「おい、おまえは知らないだろうが、ツィール夫人はな、都会ではかの有名な財閥、大企業のツィールホールディングスのCEOをしておられた方だ。
田舎町で暮らしておられて気さくな方だから、わからないだろうが、本来は僕たちとは住む世界も違うお方だってこと!」
「王様とメイドくらいの差ってことかしら。」
「まあ、そんなもんだ。」
「おほほほほ、面白いご兄弟ね。そんなにかしこまらなくていいのよ。
そりゃね、若い時は亡き主人と必死に働いた時期があったけれど、もうこのとおりのお婆さんよ。
非嫡出子だったことで息子が認知はしたものの、ツィール本家に出入りすることも許されない孫とこうやって気ままに生活してるの。
孫は大人になってからなかなか私とおしゃべりもしてくれないし、もう死ぬのを待つだけになってしまうのかしらって思ってたけれど、あなたたちが引っ越してきてくれて、これからは楽しみだわ。
いつでも遊びにきてちょうだいね。
チェルミ、学校のお話をしにきてちょうだい。
おいしいお茶を用意して待ってますからね。」
「あ・・・(なんか、このおばさん・・・優しい。うちのばあちゃんみたいだ。
うちの家族は私の言うことなんてぜんぜんきいてくれないけど、ばあちゃんだけはいつも私の味方だもん。
ばあちゃん、きっと私が追放されちゃって悲しんでるだろうなぁ。)
私、ここにきてもいいの?おばあちゃんとお話してもいいの?」
「もちろんよ。まぁ、私のことをおばあちゃんって呼んでくれるのね。
なんてかわいいのかしら。」
「かわいい?ほんと・・・!そんなこと言ってくれたのは私のおばあちゃんくらいで。」
「あら・・・そうだったの・・・。あなたのおばあさまのいい思い出なのね。
それじゃ、ますますうちに来てもらわなくてはね。
これから、よろしくね。チェルミ。」
「はい、おばあちゃん!」
「おい、ツィール夫人になれなれしすぎだって。」
「いいのよ、私もチェルミが気に入ったの。
あなたも、遠慮せずに遊びにきて。」
「はい、ありがとうございます。
では、まだ荷物の片付けや手続きがありますので、落ち着いてからまた。」