不完全な魔女
ディルバは今の生活に満足してるんだってことがチェルミにもよくわかっていたし、今から妖精王にならなきゃいけないわけがあるのか・・・?と疑問に思った。


「ねぇ、どうして妖精王候補は他にいないの?」


「みんな森から出て行ったと手紙には書いてある。」


「それっておかしいわ。
だって、妖精族って魔法の国オンリーで暮らしていた我々より、住むところの制約も少なかったはずよ。
出て行っただけなら、もどせばいいだけじゃない。
なのに、ディルバに声をかけるってどういうことなの?」


「わからない・・・。しいていえば、能力の差なのかもしれない。
妖精王と戦ってわかったことだけど、最初きいていた速さよりも遅かった。

もっともっと高速で突っ込んでくるものだと思っていたのに、こんなに遅くて読めるのかって正直思った。
だから君を抱いたままでも自分の体力さえあれば逃げおおせたんだ。」


「そういえばそうね。私も妖精王っていうから、もっとすごいのかと思ってた。
テレポート能力の他は怪力だってそれほどでもなかったし・・・ディルバの方が上だと思ったわ。」


「そうだよな・・・って・・・今、おまえ・・・俺のことディルバって呼んだ?」


「あ・・・ごめんなさい。
先生でした。
まだ学校生活は半年ほどあったんでした。」


「いや、家でまでいいんだ。」


「えっ?」


「もう担任じゃないし、俺の悩み事も普通にきいてくれているじゃないか。
ディルバでいいよ。
ただし、学校ではダメだぞ。」


「はぁい。うふふ。」


「なんだ・・・妙にうれしそうな顔してるな。」



「ううん、うれしいなんてことないって。
妖精族のことを1度調べたみなきゃいけないよね。

これは森に行ってみるしかない。
でしょ?」


「やっぱりそれしかないか・・・。
じゃあ、君の魔力テストのときにでもいっしょにいくよ。」


「来週ね。とにかく探ってみましょ。」



そして、2人はチェルミの魔力テストの日に妖精の森へ行ってみることにした。


「誰もいないわ・・・。」


「ここが妖精の森の中心部で、妖精王の住む邸があるときいたんだが。
あ・・・そっか、目くらましだな。

ちょっと待っていてくれ。」


しばらくディルバが目をとじて何かを感じていると、声をあげた。


「ここから跳ぶみたいだ。おいで・・・跳ぶから。」


「テレポートできなきゃいけないところなのね。」


「ああ、行ってみよう。」


そして2人はディルバが感じたとおりの方法で目的地へと到達した。




「やっとたどりつきましたね。え~と・・・ディルバキス。」


「えっ?俺はディルバ・ツィールですが。」


「それは人間界での名前です。
本名はディルバキス・リュー・サッフィナといいます。

それと、誤解があるようなのでいっておきますが、あなたの本当の父親はこの国の兵隊でもうこの世にはおりません。」


「ちょ、ちょっと待ってください。
俺は、人間界で母が父と恋愛してできた子で・・・。」


「いいえ、あなたは母が人間界へ行ったときにはお腹に宿っていたのです。
そのときも、こちらでは内戦があって我が妖精族は逃げ惑うしかなかった。

ずっと力のない妖精王の世界が続いていたおかげで、このとおりのさびれたところとなってしまいました。
あなたが先日倒した妖精王のフラビスだって遠縁の息子だった。
だから、テレポート能力も、力技も弱かったと思ったはずです。」


「確かに・・・。」


「あなたはサッフィナ家の直系であり、父親も近衛師団長だったこともあり、戦闘にとても向いているのです。」


「しかし、俺は・・・戦いたいと思ったわけじゃない!」


「わかっています。あなたは優しく妹の死を安らかにしてくれましたし・・・今の生活だって。
私が見せていただいた限り、荒々しい部分は消えています。

でも、このとおりの森ですし、私の力もそろそろ及ばなくなっています。
妖精たちはそれぞれに旅立ってしまい、ここの森に残っている妖精もすっかり減ってしまいました。

そこで考えたのですが、この場所へときどきでいいのでもどってもらえませんか?」


「今の家からここへ跳べとおっしゃる?」


「そうです。あなたなら簡単なことでしょう?
できればお妃は同じ妖精族でお願いしたいところですが・・・。」


「そ、それは・・・。」


「どうしてもそちらの魔女のお嬢さんを嫁にしたいのなら、それでもかまいません。
それでも、妖精族の力を持たない子を産んだら・・・きっとまた内乱が起こるでしょう。」


「そんな・・・。」


「すみませんが、話が急すぎてついていけません。
しばらく考えさせてくれませんか?」


「わかりました。でも1か月くらいのうちに返事はいただきますよ。
新しい妖精王を探さなくてはならないのでね。
私はマウレス・レブ・サッフィナ。
あなたの伯母です。

私の息子たちはみんなもうこの世にはいません。
戦闘でみんな死に絶えてしまったのです。
はっきりいって、もう何もかも空虚な世界だと思っています。

でも、あなたがいれば、この世界も昔のように楽しく裕福な世界になるような気がするのです。
とはいっても、もう頭数自体があまりにも減ってしまったんですけどね。」

魔法の国の王女だって自国が父君の決めた国とは変わったということを決めなければならなかったから、よくおわかりでしょう?
昔は、魔法を使える者だけで十分暮らせていた場所でしたね。

そして、よく我が森にもパーティーの誘いをしていただきました。
その頃が懐かしい・・・。」
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