不完全な魔女
2人とも暗い顔をしてディルバの家へと戻ってきた。


「すまない。せっかくついてきてもらったのに、困ったことになったものだ。」


「いえ、私は魔女だし・・・魔法の国がまだありますもの。」


「そうだな。君は若い・・・俺について来なくてもいくらだって素敵な男性は現れる。」


「ええ・・・じゃ、私は部屋にもどるから・・・お婆さまとお話してくださいね。」


「ああ。」


部屋にもどったチェルミは涙が止まらなくなっていた。


「わ、私・・・どうしたらいいの?
卒業したら、家にもどって立派な魔女になるのよね・・・。
今だって、ディルバは私のことは1生徒だとしか思ってないもの。

仕方ないことじゃない。
ディルバがいなければ妖精の森も仲間たちもうまくいかないんだから・・・。
仕方ないんだから・・・。」




ディルバは妖精の森でマウレスからきいた話をナタリアにしていた。

「そうだったの・・・。
やっぱり、あなたは立派な家の出だったのね。」


「えっ、お婆様は俺が最初から父さんの子じゃないことを知っていてここにいらしたんですか?」


「そうなの。言ったらなんだけど、うちの息子ってあまりにありきたりな男でしょう。
あなたのお母様にフラフラ~っていったのは確かなんだけど、相手にされないとすぐ自分が優位にたてることを望んだの。

幼いあなたが本当に不憫でね。
しかも母親も死んでしまって施設行きだなんて、我慢できなくて。

それで、私はね・・・やってきたの。」



「そうだったんですか・・・ある意味、すべてを教えてもらえてよかった。
ずっと父さんには好かれない息子だとばかり思ってきたけれど、やっと理由がわかった。

それだったら妖精王を継いでもいいですね。
ここから必要なときに通えばいいらしいし。」


「うれしくないようね・・・。」


「えっ?そんなわけでは。」


「もしかして、私やチェルミがじゃまになっているのかしら?」


「いえ、彼女はもうすぐ自分の国に帰るだけですし・・・。」


「あら、黙って帰らせてしまう気なの?」


「な、何をおっしゃっているんですか。
チェルミは魔法の国から勉強のためにこの世界へきているだけです。

学校を卒業したら、故郷に帰るのは前からわかっていることじゃないですか。」



「そうかしら?だってあなたはさっきからずっと上の階を気にしてるみたいだからね。
私も他人だとわかってこれから私を放りだす気ある?」


「そんなわけないじゃないですか。
俺はお婆様に追いかけてきてもらって、とてもうれしかった。
母さんが死んで、私がここにいるって言われたときほんとにうれしかったんだ。」


「そうね。チェルミが帰ってきたときもとてもうれしそうだったけど・・・私とは違うのかしら?」


「それは・・・10も年が離れている彼女に何ていうんです?
彼女はまだ未成年です。
もっといろいろと経験を積まなきゃ、人生を棒にふってしまう。
それに、チェルミは今、痛手を受けた魔法の国を建てなおすって役目がある。

俺も妖精王になったら何かと立て直さなくてはならない・・・。
学校の先生も続けられるかわからない。
だから、俺は・・・。」



「そうね、今すぐっていうのはやらなきゃならないことがあるものどうし、難しいかもしれないわ。
でもね、人生ってやっぱり悲しいことも乗り切らなきゃいけないし、楽しいこともなければ生きてはいけないと思うのよ。

ふとひとりになったとき、チェルミがいる世界と居なくなった世界はどれだけ違うのかしらね。」



「そういうことは、俺の一存では決めていいことではないはずです!」


「そうね。チェルミだって言い分がきっとあるわね。
でも、1つここであなたに質問するわ。

チェルミの保護者をカリフができないってわかったとき、あなたは真っ先に自分が・・・って言ったそうじゃないの。
そのときのあなたの顔もいい顔だったし、チェルミもとてもうれしそうだった。」


「それは、まだ彼女に学問する必要があるし・・・お婆様が家にいればランダルの家にいるよりかはずっと安全で2人が楽しく暮らせると思ったから。」


「まぁ、いいわ。
どっちにしてもチェルミは高校生だものね。
でも数か月なんてあっという間よ。

いなくなった我が家はとても寂しいわ。
私はチェルミがいなくなってしまうのが堪えられるか心配よ。
だって、カリフのところへ行ったときでも悲しかったんだもの。

チェルミはとってもいい娘だわ。
もっといっしょに居たい。
だけど、お父様は亡くなったし、お母様はご病気でご兄弟も亡くなった方がおられるそうだから、ご家族の事情は尊重しなきゃいけないんでしょうけど、私は・・・私はチェルミと居たい。」


「お婆様・・・言いたいことはわかりました。」
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